息子の視線

転院から一夜明けて、翌日。

前日の疲れがかなり残っていて、午前中はゆっくりモードでスタート。

彼はよく眠れたかな…少しばかり不安もありつつ、午後病室へ向った。

ちょうど看護担当の方と廊下で出会い、昨日の様子等をうかがう。

もちろんこちらも移ったばかりで戸惑うことあるけど、

担当スタッフさんたちだって、受け入れたばかり。

どんな状態なのかじっくりと彼の様子を見ているところなんだよね。


前院と違って、こちらはリハビリテーションの専門病院。

むしろ体幹を抑制するベルトなどはなく、お部屋の中は自由に動き回れる。

スタッフが視に行くと、床に座り込んで手で壁のテープを

はがそうとしていたり、ベッドで休んでいることがなかったらしい。

結果、朝一番でベッドを出し、和室のしつらえに替えられていた。
安全面の配慮だ。


高次脳機能障害は、個人差があり、広範囲のしかも

レベルもさまざまに症状が出て来る。

ここのところは、ずっと何か(いつの話なのか)こだわりの強い話、

小難しい言葉遣いが目立っていた。そこに、

こちらの相づちが納得いかなかったり、あるいは否定的な態度を

見せると、瞬発的に激高することも少なくない。

自己完結で話している間はまだ穏やかに済んでいても、

人の話を聴こうとすると、彼の中できっと必死の葛藤が深く、

理解できない苛立ちからか、急速に機嫌が悪くなり暴言が飛び出す。

その射るようなネガティブワードが度重なって突き刺さってくると…

十分にわかっていても、次第に暗澹たる気持ちになってくるんだよね。

ご老人でも、認知障害で似たような症状が表出することあるかと思う。

そんな凹んでいたところに、息子がやってきた。


カーペットの床にへたり込み、療法士さんと出口の見えない

やりとりを続ける父の姿を、しばらく立ち尽くして視ていた。 

私もあえて黙って見ていた。 

そうだよね、戸惑うよね。前院で、だいぶ情緒も安定して、

ツナガッててきたかなーと思っていた矢先だったし…

えーまた後退しちゃったかな…なんて。。。


すると彼はそれまでの探るような眼差しから変わり、

大きな海のような優しさをたたえて、

やおら父親の目の前にどっかりと腰をおろしたのだった。

まるで父親の定まらない視線に中に、

自分の姿を映し込ませようとするかのように。

そしてやさしく父の手を取り…

「オッす、オヤジ。元気か。

いろいろ気に入らないことあるよな…わかんないよな…」

と語りかけた。力強くてそして限りなく温かくて、

まっすぐな視線が父に向けられていた。 

父の不安を拭おうとするかのように。瞳が本物の、本気の愛で溢れていた。


…嗚呼…あなたは、いつの間にこんなに成長したのでしょう。

その姿を見て、それまで抑えていた心のガードが溶けちゃって…

涙がどっと溢れてきたのでした。

あなたに教えられ、支えられています。親バカ御免でつ ( ̄▽+ ̄*)


新しい高校でも友だちや先生に恵まれて、望んでいたとおりの

楽しい学校生活を送る事ができてると言ってたけれど… 

きっといろいろ思うところもあるだろうにね。

家のケアもままならない日々でも、私をとがめることひとつもない。

こっちがしっかりしなくちゃ、だわ。 
Daddy & mom are proud of you☆


 

そうして、施設を出ても…止まらない涙。

ずっと話しながら一緒に家まで帰ったよ。

「もうさ、前の親父は…とか比べない方がいいんじゃね」
「そうなんだよね。前ほどじゃなくなったけどね。
わかってるんだけど…時々、心折れそうになったりしちゃって…」
「いいと思うよ、仕方ないよ。 いいんじゃね、たまには折れちゃっても…」
「…ありがとう…」
「…だってさ、心臓止まってたんだぜ…時間かかるさ」
「そうだよね。ここまで来て、しゃべってるんだもんね」
「そうだよ…とりあえず背中から話しかけるのはやめた方がいいね…」
「うん、気をつけるよ…」 etc...



そういえば…日曜日に遅く起きてきて、言ってたね。

「オヤジの夢見たゼ。 ふつーに家に居て『ワンピース』読んでたよ。
帰ってくるんじゃね 」

正夢になれ〜い☆ ヽ(;▽;)ノ

ギフトは、いつも予想しないカタチで舞い降りてくるのです。
そうなのです。 ありがとう☆

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